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◉震災発コラム

被災者に寄り添った安心報道を

埼玉県 ◉ 2011年3月12日
東北地方太平洋沖地震

text by kin

2011.3.12  up
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東北地方太平洋沖地震(埼玉県南部 2011年3月11日)
東北地方太平洋沖地震により、埼玉も停電が発生し信号が消えた。
渋滞で連なる車を警官が誘導する。停電は十数時間続いた。(埼玉県南部 2011年3月11日)

地震後、関東も、光のない夜に包まれた。

東北地方太平洋沖地震が発生し、居住する埼玉県南部も震度5強に見舞われた。周辺も個人的にも大きな被害はなかったが、直後に停電し断水。電車は駅に停止し、街の信号も消えた(いずれも翌朝復旧)。コンビニやスーパーも照明とレジシステムが起動しないために閉店。店舗は緊急時の物資供給地点にならないことがわかった。一人ずつ入店させることで営業を再開したコンビニには長蛇の列が。日も暮れると街は暗闇に包まれ、宙の月とオリオン座がよく見える。懐中電灯の下で湯煎したご飯を食べる。停電ではネットもできず携帯電話も通じない。固定電話とiモードだけは大丈夫だったが、各種充電池を充電できないのでむやみに使えない。

唯一の情報獲得手段は、明るい内に探し出したラジオだった。受信できたAM放送を聴く。一体どこで何が起こったのか。伝えられる被害情報はまるでハリウッドのディザスター映画のようで、現実味がない。仙台の親戚が気になる(翌朝、無事の連絡が)。夜半、ニュースの合間に流れたビートルズに熱くなった。

民放テレビの報道は、不安要素ばかりを煽っていた。

通電した朝、テレビのニュースは被災情報を伝えていた。映像で被害の実態を目の当たりにすると、そのあまりのひどさに驚くばかりだ。だがその「被災報道」はいったい誰に向けての報道なのだろうかとも考えさせられる。民放局では、アナウンサーは冷静でなくてはならないはずなのに、興奮した口調で感情的に原稿を読み上げ大変だ心配だと伝えていた。そしてそれは政府や行政へ救援の遅れなどの批判へと続けられていく。批評コメントや評論は後でもいい。今はネガティブな批判ではなくポジティブな注文を伝えて欲しい。さらには毎回のように「今一番困っていることは何ですか?」と学習しないままのテンプレ的な質問を繰り返し、被災者が涙を見せるとカメラはその眼をズームアップしていく。ヘリ取材の映像は被害把握には重要だが、執拗な飛行は救助活動への妨げと被災者の不安をあおるばかりだ。被災者の側に寄り添わないそうしたメディアスクラム的な取材手法は、阪神・淡路大震災の時からなんら変わっていないのか。

被災情報や地震、津波の地震学的なメカニズムの解説も重要だが、同時に私たちが今知りたいのは、被災者へのサポート情報だ。避難所はどこにあるのか。救援物資や給水、炊き出しの場所は。行政の窓口は。道路や鉄道、空港などの運行状況は。停電や断水はいつまで続き、解除はいつになるか。その意味では特にテレビ報道は被災者へのサポートが薄く、報道の役割を一部でしか果たしていない。

停電下では電池で動くラジオからのライフライン情報が頼みの綱である。興奮した口調で「気をつけて行動して下さい!」と言うよりも、具体的な情報を伝えてくれたほうが被災者はより注意も安心もできる。報道は災害時においては権力の監視機関であると同時に、同じ防災機関の当事者でもあるはずだ。ネガティブな状況だが気持ちをポジティブにできるように、冷静で正確な情報を伝える「安心報道」をして欲しい。

「安否情報」の伝え方には疑問も

NHKが「安否情報」を教育テレビ、FM、データ放送で放送している。貴重なメディアのリソースをこんなことで無駄に消費するのは許されないことではないかと思う。例えば被災者が数百万人居たとしても、実際に読み上げられる件数は過去の実績からしても2万件にも満たないほどだという。確かにその読まれた安否情報は貴重で有用なものだが、そこにデータベースとしての一覧性や検索性が無いために、それを必要とする視聴者・聴取者は、延々と読み上げられる安否放送から一瞬足りとも眼や耳からそらすことはできないのだ。避難生活中の被災者にとっては、このようにマッチングするかどうかの確証もないことに意識と神経を専念させることは、とても現実的なことではないだろう。このようなシステムのままでどれほどの有用性があるのか。

それならばより有効的なNTTによる災害用伝言ダイヤル「171」、携帯電話各社が設置している災害用伝言板、そしてGoogleの提供する「Person Finder (消息情報)」や「避難所名簿共有サービス公開ギャラリー)」などを積極的に紹介し、その周知と活用を促すべきではないだろうか。そしてそれによって空いた教育テレビ、FM、データ放送の貴重なメディアリソースを、よりローカルな生活情報、ライフラインや交通、救援情報などへ使って欲しい。

[2011/3/15 一部加筆]

[了]

#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。

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